初めて在宅勤務を導入する企業に知ってほしい社内ルールについてご紹介

緊急事態宣言に伴い、各社急速に導入が進んでおります、通勤をせずに自宅で業務を行う「在宅勤務」。もともとは働く女性の活躍や多様な働き方の実現を目的として、在宅勤務制度の導入を進める企業も増加しておりました。在宅勤務を英語にすると「work from home」と言いますが、近年は在宅勤務がより一般的になったことで「WFH」と略されるケースもあるようです(私もたまたま聞いただけですが。。。)。柔軟に働く方法として浸透しつつあるものの、バックオフィス業務の担当者としては、在宅勤務制度を導入する際の社内ルールについて悩む企業・担当者も多いのではないでしょうか。ここでは、バックオフィス担当者のために在宅勤務制度の社内ルールについてのポイントをご紹介します。

初めて在宅勤務を導入する企業に知ってほしい社内ルール

ポイント①:社内ルールを明確にする

 在宅勤務制度を導入する際は、社内ルールを明確にし、周知及び運用の徹底をすることが特に重要です。ここでは、在宅勤務制度を導入するために必要な就業規則や、在宅勤務規程の検討するポイントについてご紹介します。

在宅勤務制度の就業規則・在宅勤務規定の記載について

まず、在宅勤務制度に関する規定を「現在ある就業規則に追記をする」又は「新規で在宅勤務規定を作成」するかは企業のご担当者様・代表者様の判断により分かれますが、わかりやすさや更新のしやすさの観点から、「新規で在宅勤務規定を作成」する方が運用しやすいと思います。

通勤交通費およびその他手当について

通勤交通費は従業員の在宅勤務期間中は会社へ出社しないため「支給しない」という運用が正しいでしょう。しかし、単に全従業員を対象として一定額の手当を一律支給するものとしている場合などはその運用とは変わってきます。就業規則や賃金規程における支給要件が不明確である場合には、在宅勤務の対象者についても、企業が通勤手当等を支給すべき義務を負う可能性があります。まずは、通勤交通費の支給要件を明確化すべく適切に就業規則等の変更を行うことをお勧めいたします。また、在宅勤務の期間中に企業側の都合により出社の必要が生じうる場合には、別途小口清算が出来るようにするか日割りで交通費を支給できるようなにかしらの対策が必要となります。

その他の手当てにつきましては、支給要件から在宅勤務の対象者への支給の要否の判断が容易であることが重要です。手当支給について不明確な点があるものについては適切に支給要件を変更する必要があります。

自宅の光熱費、通信費等の扱いについて

 在宅勤務に関わる自宅経費の費用を誰が負担するのかについては企業ごとにルールを明確に策定する必要があり、未然にトラブルを防ぐために従業員に周知徹底させる必要があります。

「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」を就業規則に規定しなければならないと労働基準法第89条第5号で定められております。そのため、就業規則の届出義務がある企業が、在宅勤務による費用を従業員に負担させる場合は、必ず就業規則またはこれと一体となる規程においてその旨を規定し、管轄の労働基準監督署へ届出なければなりません。

在宅勤務で発生する費用の例について
  • 自宅ネットワーク費用
  • PC等の環境面の費用
  • 筆記用具や宅配などの費用
  • エアコンなどの電気代や水道代などの費用

 在宅勤務となる場合、必要経費の中にプライベートで使用するものも多いため、全額を会社が負担するか一部は個人負担するかは企業の判断によって変えることは可能です。ある程度金額を明確にして「在宅勤務手当」として一定額を組み込むことが規定する方法としては簡単かと思います。

ポイント②:賃金や手当について

従業員が在宅勤務を行う場合においても当然ですが、「労働基準法」「最低賃金法」「労働安全衛生法」「労働者災害補償保険法」といった労働基準関係法令が適用されます。そのため、在宅勤務制度の導入にあたっては、各法律に基づいて各労働条件を規定する必要があります。ここでは、在宅勤務時の給与や保険、各種手当の取扱いについて説明します。

年次有給休暇について

年次有給休暇は通常通りに付与する必要がございます。

在宅勤務中は従業員が私用などで業務から一定時間離れる等出社中であればサボり、休憩などといわれる時間が発生しやすいです。こちらについては、勤怠管理が出来るのであれば休憩時間として定めるか、欠勤として定めるか場合によっては、年次有給休暇として定めるかは企業の判断で分かれます。

賃金について

基本的に労働条件の不利益変更に該当するため、基本給の減額は出来ません。原則として従業員から同意の取得が必要となり、在宅勤務の対象者について基本給の減額を伴う就業規則の変更を行う必要があります。(労働契約法第9条)。

合理的な理由が存在する場合には、就業規則の変更を行うにあたり使用者の一方的な就業規則の変更が可能です。在宅勤務の対象者について、基本給の減額を行う余地がありますが(同法第10条)、基本給の減額は従業員に対する不利益の程度が大きいことが予想されます。

在宅勤務の労災の扱いについて

 在宅勤務の場合も業務時間中に起きた業務災害の場合には労働者災害補償保険法の適用対象となり、業務災害があった際に保険給付を受けられます。業務災害とは「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」を意味します。(労働者災害補償保険法第7条第1項第1号)私的行為が原因となって起きた災害は「業務災害」としては認めれれません。「業務行為」と「私的行為」を明確に区別するために、「業務時間と私的時間の区別」「業務時間」「業務場所」については、明確なルールが必要です。

在宅勤務で「業務災害」として認められた例

◎勤務時間中に業務をしており、トイレのため、移動しようとした際に机に脚をひっかけてこけてしまってケガをした。
→「業務行為」をしているときにトイレに移動をしているため業務に付随する行為であり、「私的行為」によるものとして認められないので、労災が認められます。

ポイント③:労働時間の管理について

在宅勤務制度を導入する場合でも、従業員の勤怠について適切に管理する必要があるため、企業は従業員の労働時間を管理する必要があります。。特に、出退勤をタイムカードで管理している企業は、在宅勤務者を管理することが出来なくなるため、別の勤怠管理方法の検討が必要で鵜s。ここでは、在宅勤務の勤怠管理ついてご紹介致します。

なお、以下の勤怠管理方法を導入としても、企業は従業員に対して、正しく労働時間を管理する必要があるため、場合によっては労働時間の実態調査等を実施することにより、実際の労働時間と申請された労働時間に乖離が無いかを適切な措置を講じるべきでしょう。

方法①:メールによる勤務時間の管理

一番導入のハードルは低い、一日の就業時間をメールで管理する方法です。メールを利用した労働時間管理は、「従業員への説明ハードルが低い」「情報共有が楽」といった特徴があるため、在宅勤務制度を導入している企業で多く利用されているようです。普段使用しているチャットツール(SlackやChatWork等)があれば、それを利用することも可能です。業務時間の連絡を行うときには一定の時間を決めたり、連絡先などの明確なルールを設けることが大切です。

方法②:Web勤怠管理システムによる管理

クラウド上で勤怠管理ができるツールに、勤務時間を自身で入力する方法です。Web勤怠管理システムの特徴としては、「勤怠の一元管理ができる」「給与システム等との連携による生産性向上に繋がる」があります。そのため、大人数の従業員が在宅勤務を行う場合にオススメです。また、様々なデバイス(パソコンやスマホ等)から勤怠情報の入力が出来るものがほとんどのため、従業員の使用しているデバイスに合わせることが可能です。

方法③:業務スケジュールのシェア

カレンダーツールなどを利用し、従業員の1日の業務スケジュールを管理する方法です。在宅勤務をする従業員に、「休日」や「打ち合わせ」、「当日のタスク」等の一日のスケジュールを出来るだけ詳細に記入してもらうことで従業員の一日の行動の可視化が出来ます。また、生産性向上するためには、「従業員が集中したい時間帯」や「連絡を取りやすい時間帯」を把握することで、当日の急なミーティングやお互いに非効率な連絡の取り合いを減らすことにも繋がります。

ポイント④:コミュニケーション方法

在宅勤務を導入することで、社内コミュニケーションが減少する事例が出ています。プロジェクトで業務を行っている場合は、遠隔で業務を行うことで微妙な言葉の受け取り方の違いにより認識の相違が生じることがあります。ここでは、在宅勤務で取り入れたいコミュニケーション方法をご紹介します。

方法①:チャットツールによる連絡

メールではなく、気軽なチャットツールを利用することで、離れていても手軽に情報を共有ができます。従業員同士のオープンなコミュニケーションを促すことでコミュニケーション不足の解消を図ります。また、チャットツールでの会話は、メールでは必須とも言える「かしこまった挨拶」を省くことが出来ます。それによりリアルタイムでスピーディーなやり取りが可能となり、生産性向上につながる可能性もございます。コミュニケーションを活発にすることや従業員の距離を縮めるために、絵文字やスタンプを活用することも効果的です。

方法②:Web会議

口頭でのミーティングを実施する場合は、Web会議ツールを利用することで、複雑な情報を口頭でコミュニケーションを行うことにより情報共有出来ます。対面でのコミュニケーションと限りなく近い感覚で情報交換ができるため、表情や口調からのニュアンスが伝わりやすく、ニュアンスの齟齬が生まれにくいといったメリットもあります。Web会議ツールには、1対1だけでなく大人数での会議も可能であり、会議への参加人数やミーティングの内容によって運用を分けることをおススメ致します。

方法③:オンラインでの朝礼・終礼

ビデオカメラで顔を合わせることが難しければ、先ほどのチャットツールやメールで報告するのもおススメです。朝礼では「その日の予定や役割分担の確認」、終礼では「残っているタスクの確認」をするなど、あらかじめ議題を決めておくことで、お互いの状況を把握することもできます。また、在宅勤務をする従業員がプライベートから仕事へ切り替えるきっかけとしても有効です。

在宅勤務制度のメリット・デメリット

在宅勤務制度は、従業員の柔軟な働き方を可能にする一方で、企業にとってはどのような効果や課題があるのでしょうか。ここでは、在宅勤務制度導入におけるメリット・デメリットと、デメリットに対して意識しておくとよいことをご紹介します。

在宅勤務のメリット

  1. 定着率の向上
  2. 経費削減
  3. 事業継続性の確立

在宅勤務を導入することで、働き方の多様化し従業員の定着率向上や、社員がわざわざオフィスに交通費をかけて行く必要がないので、通勤や移動にかかるコストを削減できます。

在宅勤務のデメリット

  1. 業務とプライベートの切り替えが難しい
  2. 人事評価が難しくなる(現状の方法から見直しが必要となる可能性がある)
  3. コミュニケーション不足が発生する
  4. 勤怠管理の複雑化

最もよく聞くのは、在宅で業務を行うことで、プライベートと業務時間の線引きが難しくなり、つい家事を行ったり、漫画やネットサーフィンを行ってしまう等があります。そして、今まで会社に来ることで人事評価を行っていた会社は良くも悪くも目の前にいるからやりやすかったかもしれませんが、人事評価が適正に行われなくなる可能性があります。しかし、人によっては逆に正しく評価してもらえる可能性もありますので、デメリットばかりではないと考えられます。様々なデメリットは発生するとは思いますが、徐々にクリアしていくことで、在宅勤務制度を無くしてもより良くなると思います。

 

まとめ

在宅勤務制度を導入によって柔軟な働き方が可能となり、生産性の向上や労働力の確保といったさまざまな効果が期待できます。円滑に導入するためには、事前に導入目的や適用範囲、社内ルールなどを明確にし、従業員に対してガイドラインを周知することが大切です。また、より有効な制度として運用できるよう、制度導入後には定期的に見直しを行い、自社にとっての最適化を目指して頑張りましょう。

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